―――火の国ファーニス・宿の酒場
一足先に宿へと戻った俺たちは、そのまま酒場へと向かい椅子に座る。そしてすかさず店員に酒を注文。もちろんジョッキで。真昼間から酒とはけしからんだと? うっさい、今日はめでたい日だ。今祝い酒をしないでいつするというのか。
「妹達のお使い成功を祝して―――」
「孫達の成長を祝して―――」
よく冷えたジョッキを掲げる。
「「―――乾杯っ!」」
カーンと小気味良い音を鳴らし、一呼吸で中身を飲み干す。うーん、美味い! 俺はジェラールほど酒好きではないが、こういう酒は大歓迎だ。互いの興奮を、互いの喜びを共有できる最高の道具だからな。
「おーい、昼間から何で酒盛りしているんだい。ケルヴィン君?」
「アンジェか。聞いてくれ、リオンとシュトラのお使いが成功した。大成功だ!」
「お使いとは長い旅路でな。山あり谷ありのサクセスストーリーじゃった。ワシ、感動して目が霞んじゃって……!」
「うん。分かった、分かったから落ち着こう。あ、店員さん。私はパインジュースで」
それから俺とジェラールはアンジェの為に熱く語った。目的地である店(ゴール)までの遠い道のり。道を塞ぐ2人の魔女の登場。繰り広げられる熱き戦い(フードバトル)。我慢できずに飛び出そうとするジェラールを必死に止める俺。逆も然り―――
「貴方達、姿が見えないと思ったらなんて馬鹿なことをしてたのよ……」
「ご主人様、ただいま戻りました」
「ふぁんふぁふぁふぁ!」
おっと、語りに夢中になり過ぎてしまったようだ。気が付けばセラ、エフィル、メルも宿に戻って来ていた。抱える紙袋を見る限り、こちらは女性物の日用品を買いに行っていたようだ。女神様だけは食い物な気がしてならないが、たぶん気のせいだろう。メルだって女の子だ、口に頬張ってるあれも違うと思うことにする。
「もぐもぐ…… ごくん。あなた様、その戦いについて詳しく!」
「あー、もう終わった話なんだ。すまん」
「そ、そんな……」
メルが世界が終わったかのような顔をする。それ、女神様がしちゃいけない表情じゃなかろうか? それにお前、両手で抱えるものが目の前にあるだろうに。頑張って日用品だと思い込もうとしたけど、やっぱり無理だったよ。どう見ても南国フルーツに肉の山だよ。
しかしメルフィーナの食いっぷりに慣れているこの身であるが、ムドファラクのそれもなかなかのもので驚いたものだ。2人掛かりで勝負する双子姫を相手に、真向から立ち向かい見事勝利したのだ。氷の食べ過ぎで頭を抱えながらも、各々5皿ずつを平らげた褐色少女達の気迫には素直に感嘆したものだが、ムドファラクは余裕の表情でその3倍はカップを空にしていた。
まあ、本体ともいえる竜型があのサイズだからな。人型であればその必要分の食事を取れば事足りるが、食べようと思えば竜型の時ほどに食べることができるようだ。最近はより満足度を得る為に人型で食すことが多かったが、まさか本気になった竜王様がここまでとは…… 青髪のムドファラクは寒さに強いし、この勝負は勝利すべくして勝利した戦いといえるかな。スイーツ系であれば、ムドファラクの食い意地はメルを上回る、か?
―――ないな。
「「ただいま~」」
おお、英雄の帰還だ。皆、手厚く出迎えるのだ!
「うおおん、立派になりおって……」
いや、そこまで感極まるのはちょっと。
「お帰り。買い物は上手くできたか?」
「うん! 色々あったけど、必要なものは格安で全部揃ったよ!」
「ムドちゃんに助けられた感じだったかな~」
「個人的に満足した」
「それは重畳。さあ、膝の上に来るといい」
「ケルにい、もしかしなくても酔ってる?」
「珍しくかなり酔ってるよー。リオンちゃんにシュトラちゃんも気をつけなよー」
No Comments Yet
Post a new comment
Register or Login