―――ドクトリア王国
話を聞けば聞くほどに、魔王グスタフがどれほど愛娘の教育に力を入れていたのかが解明されてきた。魔王軍の最高戦力、その代表格である悪魔四天王が元々は単なる教育係だったとはな。考えようによっては悪魔の中でも特に強く、生活スキルにポイントを割り振るだけの余力のあった者らが集められたとも取れるかな? このガリアの上司、ラインハルトが巧みな筆さばきを有していたように、セラの世話を任されていたらしいビクトールは料理を得意としていた。
「ビクトールの作る『かれー』は絶品よ! あら? でもクレアが前に作ってくれた『かれー』はまた違った料理だったような……? まあ、いいわ! どっちも絶品よ!」
とはセラの言である。ビクトールがエプロンしながらカレーを作る姿か…… 想像できないな。まあ、そんな人材を娘の為にと世話役に当ててしまうからこそ、グスタフは暴王と呼ばれていたのかもしれない。
うん、悪魔四天王の内々の事情はよく分かった。奈落の地(アビスランド)に来てこんなにも早くセラの故郷についての情報が得られるとは僥倖、僥倖。俺やセラの幸運値を考えれば必然ともいえるだろうか? いや、過信はよろしくないな。単に前魔王というビッグネームに連なる事だからこそ、情報が集まりやすいってのもある。でも今回は大いに利用しちゃう。
「あの、失礼ですが貴方とセラ様はどのようなご関係で?」
「「恋人」」
「グフォッ!」
おいおい、急にガリアが噴き出したぞ。そしてめっちゃ咽せてる。
「お、おい、大丈夫か?」
「ゴホッ、ゴホッ…… だ、大丈夫です。問題ありません」
「ちなみに私もケルヴィンの彼女ですっ」
「グベボッ!?」
アンジェがわざわざ黒フードを取り、キュピルン! なんて効果音が出そうなポーズを決めながら俺たちの関係を暴露した。別に隠している訳ではないが、今打ち明ける事でもないだろうに。その大胆さを2人きりの時も発揮できればなぁ、というのは個人的な悩みだ。
普段はむしろ大胆で意欲満々なアンジェであるのだが、どうも生前の経験が影響しているのか、肌が触れ合うような行為を忌諱している節がある。手を繋ぐのも一苦労なレベルだ。俺からは深く詮索しないよう努めているが、いつまでもこれではよろしくない。かといって俺から積極的に行動しては、照れ隠しなのか真っ赤になりながら忍ばせていたダガーナイフで首を狙ってくる始末。気配の読めないアンジェの攻撃は防ぐのも一苦労だ。寝惚けたメルフィーナの無意識攻撃に慣れた俺であったから良かったものの、常に首チョンパの危機なのである。で、そこから始まる戦い愛。これはこれでむしろウェルカムではある。
……しかしなぁ、たまにはイチャイチャもしたいのが男じゃないですか? そろそろアンジェの苦手意識を克服させたいと思う今日この頃。
それは別にして、アンジェの目論見通り(?)ガリアは深刻なダメージを受けているようだ。噴き出すと咽るを同時に行うとは、本当に器用な牛さんだ。
「アンジェ、何やってんだ……」
「こうすると面白くなるかなぁ、と。あと、ここで負けてなるものか、と」
んー、何やらセラに対抗意識を燃やしてるっぽい。だが面白くなるは余計である。悪魔四天王が面白い事になっちゃってる今、俺はもう少しシリアス風味にいきたいのだ。
「ガリアも何でそんな反応してるんだよ? ……おい、マジで大丈夫か?」
驚き過ぎたのか、ガリアが息をしていない。ただただ苦しそうにのたうち回っている。この王様、さっきから転がってばかりだな。このまま死んでもらっては流石に笑えないので白魔法で回復してやる。
「セラ様に彼氏、しかも二股だと……? グスタフ様がご存命であれば、血の雨が降っていた…… 国ごと滅ぼし、一族郎党処刑に…… いや、それでお怒りが済む筈がない…… 教育係であったラインハルト様や、その部下である余にまで被害が……」
回復するなり今度はブツブツと呟き出してしまった。呟く内容はどれも物騒この上ないものである。王様、しっかりしてください。傷は浅いですよ。あと二股とかじゃないから。
「ガリア、目を覚ましなさい!」
「あ、はいセラ様」
No Comments Yet
Post a new comment
Register or Login